滅茶苦茶 染井為人

染井さんは安定の面白さですね、今回も飛ばして頂きました。

最初から不穏の雰囲気満載、コロナ禍になったばかりの閉塞感、得体の知れない空気感、不安感、それらと対峙する人間の弱さ、社会の厳しさを描かれてます。

 

今井美世子は東京でシングルライフを謳歌するアラフォー女性。

37歳でバリキャリが仇となりやたらとプライドが高い。

コロナ禍の中、今まで通りの人付き合いが遮断され鬱屈とした日々を過ごす。

そんな中、友達に勧められたマッチングアプリで出逢いを求めるが。

現れたのはイケメンの外国人、ところがこいつがとんでもない悪で・・・

己を客観視しずらい自己愛の強さがロマンス詐欺の手口を見破れずドツボに・・・

 

戸村茂一は静岡県でラブホテルを3店舗経営する2代目経営者。

老朽化した建物と、コロナ禍で集客が伸び悩み、持続化給付金を申請するも支払い枠から外れ対象外とされる。

血気盛んに行政に乗り込むも社会の厳しさに打ちのめされる。

商工会の会長をしてる友人に相談、気分転換に近所のスナックに飲みに行く。

馴染みのスナックママという気安さから隙が生れた茂一に、その魔性は持続化給付金の不正受給を持ち掛ける。

尊敬する父から継いだ地盤、家族の為、己の意地、経営不振を何とかしようとするが王道でないやり方に待っていたのは転落への切符だった。

 

礼央は頭が良く中学までは挫折知らず。

鶏口牛後を目指すしたたかさはまだ身についておらずに、無理目の高校で奮闘するが。

入学して間もなくリモート授業になりやや勉強にも身が入らない状況下、久々に登校した帰りの電車で昔の友達に会う。

一端の不良になった昔の友達と再会し、関わりたくないと思う反面、周囲のレベルの高さに気後れしがちだったこと、今の友達にどこか不満があった寂しさから、昔の朱に交わってしまう。

 

感想

この登場人物の3人を特別に弱いとは思えない。

何もイレギュラーがなければ、社会や学校でそれなりに活躍する有能な側の人間だろう。

この物語の面白さはコロナ禍という先の見えない不安感の中、人間の持つ弱さ、脆さ、狡さを色んな側面から表現されてる。

この3人、途中引き返したり、軌道修正する機会はあったにも関わらず、そっちはダメと分かっていながら行ってしまうのも窮地に追い込まれた意馬心猿の難しさ。

ラストの着地は何となく予想通りだったが、決して他人事とは思えないある意味ナーバスな社会への問題提起としても考えさせられた。

コロナも収束しておらず、刹那な現代をサバイブしながら、己の孤独と向き合いながら皆が必死に生きてる。

最後に美世子が鍋の買い出しをするシーン、3人が鍋を囲みながら話す一時をイメージさせてくれたことにこの物語の救いがあったと思う。

人が拠り所にしたいもの、縋りたいものってこんなことだろうな。

ブラックユーモアでありながら、読後は何か温かい余韻の残る素晴らしさ、★5つと推させて頂きます。