介護退職 楡周平

 

 

10年以上前の作品ですが今もこの問題に直面している同年代の同志は多いのでは。

自分の年齢、状況から必ずくるテーマとしてとても他人事とは思えない作品でした。

こうなった時に己の家族、仕事、大切な絆を守れるのか?

夢中で読み進むも途中は息苦しくなるほど、介護と仕事の両立の過酷さが主人公に追い討ちをかける。

 

大手電機メーカーで部長を務める唐木は50歳、油の乗り切ったやり手のサラリーマンで都内で妻子3人で暮らす。

マンションのローンもまだ残り、子供の進学によって生活コストがあがる一方だが、仕事の方は順風満帆にきており、自身がリーダーを任され、社運を賭けた北米での商談も大詰めを迎える。

役員への道もこのプロジェクトの成功にかかっている。

同期のライバルよりやや優勢といったところまできており、勤め人としての成功もあと一歩。

そんな時、故郷の秋田で一人暮らす母が雪かき中に転倒、骨折してしまうとこから人生の歯車が狂い始める。

母を東京の自宅で引き取り、専業主婦の妻が中心となり介護の役割を担ってくれるが、その妻も過労とストレスでくも膜下出血で倒れ一家は危急存亡となる。

 

親の居住地が限界集落だと子がそこへ住むということは出来ない。

要は仕事がない、仕事が無いということはインフラなどの社会基盤が整ってない。

親が元気なうちは、親は親で生活を、子は子で生活を守ればいいが一旦そのバランスが崩れると、とてつもない負担がのしかかる。

介護、看護を人任せにして仕事に励むことなど大半の人は難しいと思う。

見ない振りして先送りしてる訳ではないが、備えなくてはと頭では分かってはいても想定を超えてくるのが介護や看病だ。

又、会社での立場、役割、家庭でもに振り回され、ままならないことが多いのがほとんどだろう。

介護や看病を理由に会社で頻繁に空けるとなるとそこは群れの掟、組織の論理として排除される方に追いやられるのは厳しいが現実だ。

主人公の唐木が母の介護事情や妻の倒れた事を言えない気持ちは共感できた。

言えばポストを外されるどころか閑職に追いこまれるのは容易に想像がつく。

本作品ではポストも外れ、追い出し部屋に配置替えされ、辞職という負の連鎖を辿るが腐らずに、己の状況や厳しい命を下した上司を恨みもせず受け入れた唐木に最後は光が射すというとこには救われた。

 

介護保険制度により助かる面もあるのだろうが、やはり公的扶助には制約や限界があり在宅介護だと最後の砦は家族全員の力を結集しては否めない。

親の介護から派生した色んな課題によって負のスパイラルに家族が飲み込まれていく、

とても重い内容だったが勉強になった。

背負うことが多い身としてはいつでも覚悟はできてるつもりだが、常に己のコンディションを整えておく事、家族を養う為の仕事を大切にすること、家族のリスク管理を怠らいよう改めて身が引き締まった作品でした。