おいしくて泣くとき 森沢明夫

森沢ワールド炸裂、掴みから涙腺崩壊しっぱなしでした。

装丁も魅力的。

メンタルデトックスには最適よ。

 

主人公心也の家は食堂、店主の父耕平は子供飯、事情のある子どもたちに無償でごはんを食べさせてる。

心也の幼いころに母は病気で帰らぬ人となった。

物語は母の入院中の描写から始まる。

母と心也の互いの優しさの交換には涙が溢れてくる。

母は息子を、息子は母を事態を察してる幼い心也への愛は不変的なもので、これ以上に上に来るものなんてあるのか。

やがて中学性になった心也、好きなサッカーで部活に励むも膝を怪我、靭帯を損傷し退部してしまう。

まだ成長過程の多感な時期に、母の死を受け入れ這いつくばって踏み出した心也に、人生の荒波は何故に容赦なく立ちはだかるんだと。

両親譲りの心根の潔さがDNAに注がれた心也、ひねくれることもなく学校に通うが。

ある時、担任から夏休み前に課題として学級新聞を発行させると、そこで選ばれたのは夕花と心也に。

夕花は美しく頭もよく控えめな性格の為クラス内でいじめのターゲットになっていた。

持ってるものの登竜門かいじめは。

夕花の家の複雑な事情が虐めをさらに増幅させていた。

夕花と心也は幼馴染でありいつも後ろの席からその姿を見ていた心也、夕花のいじめに耐えてる姿を尊敬している。

気心知れた2人はヒマ部と名をつけやっていこうと、夕花の提案の色々はとても可愛い。

ある時、約束に来ない夕花の様子を見に同級生の問題児石丸と近くにいくと、血だらけになった夕花が逃げてきた。

鬼のような形相で追いかけてきた夕花の義父はアル中で頻繁に夕花や義弟に暴力を振るってたが今回は一層ひどいことになっていた。

勇敢な石丸が義父に飛び掛かり、その隙に心也は夕花を連れ出す。

どこか遠いとこに行きたいと夕花、男気ある心也は夕花を守ろうと決断をする。

海が見たいという夕花を、幼い頃に家族3人で行った思い出の海に向かう。

日頃のシリアスな現実から解放された二人、砂浜で燥ぐシーン、せめてこの時間だけはゆっくり進んであげて下さいと願わずにはいられない。

この物語のハイライトは全てと言っても過言ではないが、やはり心也の夕花に対する優しさに感じることが多かった。

心也に絶対的信頼を置く夕花は、日頃の色々を打ち明けてく。

信頼だがやもすると心也の夕花に対しての距離感の取り方には賛否があるだろう。

いじめにあってる夕花をいつも後ろの席から見ている心也は、ただ知らんぷりをしてる傍観者ではないのか。

黙ってみているのは参加しているのと同じではないのか。

幼馴染でありながらなぜ放っとくのか。

夕花から見ればただ後ろに心也がいるだけで安心だったのか。

 

人にはそれぞれパーソナルエリアがある。

ここまでならOK,ここから先はNOというラインがある。

他人のパーソナルエリアに踏み込むのら己も相応の傷つく覚悟が必要だ。

心也の優しさには己の状況を客観的に見れて、何が出来て何が出来ないのか分別がついていたんだろう。

だからこそ夕花の気持ちを慮ることが出来て、夕花も逃避行に身を預けることができたのではないか。

男は年齢じゃない、何かひとつを決めてそれを守る。

両親から大いなる愛を決して裏切らない心也に夕花にとって心の安全基地だったのだろう。

 

途中からゆり子さんという喫茶店を営む奥様が登場してくる。

ここからは読んでのお楽しみ。

孤独なライオンと心也にあだ名をつけられた問題児の石丸。

寂しさと悲しみを強さに変換し不品行でしか己を保てなかったが彼もまた男前。

どうか彼の未来が明るく優しいもので囲まれていることを祈った。

 

大切な人たちの温かさが脈々と受け継がれていく、その温かさを決して裏切るまいと行動にしていくことの尊さはまさに優しさの連鎖ではなかろうか。

森沢さんの作品は決して裏切らない、優しさに溢れ泣かせてくれる、流石だ。

仕掛けも含めて珠玉の一冊。

読後はひばりで一杯飲りたくなった、とびきり美味い人生の酒を。